読んでいる本から視線を上げて、こちらを見つめる少女。ふっくらと紅潮したほほ、つぶらな黒い瞳に、あどけなさを残している。桃甫の力強くはつらつとした筆づかいは、かたちを簡略にまとめながらも量感を的確に描き出している。青や緑で塗り分けた背景との対比、意識的に強められた明暗の対比によって、少女のピンク色の肌は一段と輝いて見える。ぱっと目に飛び込んでくる鮮烈な赤が、桃甫の情熱を画面に吹き込んでいるかのようだ。「絵は塗るのではない。かくものである。そして絵は生き物になる。」という桃甫の言葉そのままに、この少女の姿にはしなやかでたくましい生命が息づいている。