加藤は油絵とは違った制作意欲を版画に起こしている。「銅版の快い歯応えは、油画の筆と異なった効果と表現に導いてくれるし、色や技術の心よい束縛は、おのずからキャンバスで表現する感動と異なってくる。」と加藤が述べているように、版を介して行う表現方法には、直接描くことと違い、プレス機から刷り上がったものを版から静かにめくる時に沸き起こる新たな喜びがある。そんな加藤の
[銅版画]を見ていると、色彩のない中にも何か詩的なふんい気が感じられる。画面はパタ-ン化された仮面をかぶった人物が、遠近法的配列で画面の左隅に引き込まれていく。それはまるで現実の世界と闇夜の世界の間を行き来するかのようでもある。