石造りのヨーロッパ建築の窓辺には、壁の厚さ分のくぼみができる。そこは室内と戸外をつなぐ空間であり、光が通る小さなトンネルである。第2次大戦の傷もいえた昭和25年頃から、長谷川は好んで窓を描いた。窓外の風景を描いたものと、くぼみの空間に花や人形、ボールなどをあしらった静物画と、2つの趣向の作品がある。
窓越しのおだやかな光と白いボールと猫。ありふれた光景なのに、幾何学的で端正な
フォルムとこの上なくデリケートな陰影のためか、神聖な雰囲気が漂う。四囲をめぐる花飾りに守られたこの窓辺は、現実と非現実の間にあって、こちらの世界を静かに見つめ返している。