昭和26年から始めた
[銅版画]と入れ代わるように、昭和31年に
[瑛九]は
[リトグラフ]の制作に没頭するようになる。その熱中ぶりは、「全くリト病です」と言わせるほどであった。この作品が制作された昭和32年は、油彩画が抽象表現へと移行する時期である。
[リトグラフ]も
[シュルレアリスム]的な作品から構成的な抽象へ、やがて
[点描]の抽象へと目まぐるしく展開する。その中にあって、この作品は多色刷りで
[瑛九]独特の精神世界を表現した密度のある作品となっており、
[シュルレアリスム]的な作品の集大成といえよう。奥行きのある深い森の中に浮遊する不思議な物体、その中でさまよう人物など、暗い色調の中で、現代人がはらんでいる不安やゆううつなどを暗示しているかのようである。