フィノッティの作品は、人体と動物、人体と布といったまったく異なった要素を重ね合わせた奇抜な構成が特徴である。大理石の特徴を生かし、対象の質感まで緻密(ちみつ)に表現している。アヌビスとは、古代エジプトにおいて死者を来世に導く役目をした犬神である。フィノッティは「アヌビス1」について、「エジプトのオマージュ(讃歌)として制作し、神秘性を持たせるためにベルギー産の黒大理石を素材に用いた」と語っている。ジャッカルの頭と胴を持ち、胴体から次第に変容してまっすぐに突き出している3本の人間の足。実際には有り得ない形態が、造形の奇跡によって現実の空間の中に現れ、黒い大理石の輝きが周囲に張りつめた空気をただよわせている。