昭和3年にパリに渡った村井は、ビザンティン絵画の抽象性や、マティス、モンドリアンから影響を受けたという。それからの村井は、人物や風景にも幾何学的形態を取り入れ、単純化、平面化の方向へ向かった。四角形だけで構成された作品や、黄や赤などの色面上に黒く太い線が力強く描かれた作品等である。こうした単純化は、「もののエッセンスを、形体が違いこそすれ絵の中に存在させなければならない」という村井の造形思考から発している。
この作品も、極端に単純化された色と形で構成されているが、大きな黒いL字と2つの赤い長方形は相互に絶妙な距離感を保っており、単純で幾何学的な形体があたかも生命ある存在であるかのようである。