にわか雨がふりそそぐ渓谷を描いた作品である。木々が雨に打たれ、川面と遠くの岩がけむる。自然を厳格な目でとらえ、わずかに色をほどこした水墨で描き出している。多門30歳のときの作品であり、明治40年の第1回
[文展]で三等に入賞している。この頃から多門は、
[山水]画家としての方向をかためていったようである。
[川合玉堂]は多門の絵について「人物に、
[花鳥]に、皆相当の造詣(ぞうけい)はあったが、最も
[山水]に秀作が多い。彼の
[山水]は
[古典]に基礎を置き、忠実な写生につとめて水墨に色彩にそれぞれ特徴を発揮した。」と述べている。
[狩野派]の線描をふまえた多門の力強い表現を生かすのは
[山水]画であったし、多門の気質に最もあっていたのだろう。