野口は戦時中、福岡県門司港駅の地下道で素描を描いた。後にそれをもとに制作したものが本作品である。他に「歩く」「祈る」などの連作があり「ひきあげシリーズ」と言われる。画面には多くの細やかな線が見える。衣服の皺(しわ)の質感をとらえる線、背景の深さをつくり出す線、影となる線など、それぞれが異なる役割で画面を形成している。青みがかった色調の一部に赤い色が配され、おだやかな
コントラストとなっている。オリエンタルな雰囲気を漂わせながら、西洋の聖母子像を思わせる画面。おそらく野口自身の家族を重ねて描いたのだろう。