晩年のこの作品は、中澤87歳の時の作である。中澤は自著『回想の旅』のあとがきで「私には京都・奈良の旅が多い。ゆきやすく又最も日本的な風景が残っているのが好きだ。」と述べている。やや視線を高い位置に置いて描かれた作品からは、中澤の金堂拝観に対する長年の思いが感じられる。入口に立つ僧侶、一休みしている若き拝観者、そして金堂の大きな扉の間からは様々な拝観の様子が描かれている。初期には
[黒田清輝]ら
[外光派]の影響を受けた色彩であったが、ここにはもうあの
[外光派]的色使いはあまり感じられず円熟した中澤芸術が展開されている。この作品は昭和36年第4回
[日展](新
[日展])に出品されたものである。