カジノフォーリは、昭和4年浅草に立てられた大娯楽施設で、歌・踊り・芝居の要素を織りまぜた華やかなショーが人気を博した。当時の流行の最先端であったこの場所に、三岸はしばしば出かけ、
[モティーフ]を見つけていたという。青い燕尾服に身を包んだ男は、おそらくショーの出演者であろう。舞台の出を待つひとときの表情を三岸の筆はとらえている。白と黒、赤と青などの
[コントラスト]の強い色彩と、カンヴァスに塗り込んでいくような
[タッチ]で、人物の内面まで力強く表現している。厚みのある
[マティエール]や黒く縁どられたりんかく線などに
[ルオー]の影響がうかがわれ、この時期の三岸の画風がよく現れている。