羅漢とは、仏教の修行の最高段階に達した人のことである。釈迦と十六羅漢を双幅に描いた本作品は、多門が師の橋本雅邦の影響を大きく受けていた二十代半ばのもので、明治37年の第3回二葉会展覧会で二等賞を受賞した。多門と同郷の画家、小山田秋甫の叔父である龍岡篤敬の求めに応じて制作された作品であり、龍岡に宛てた書簡も残されている。
書簡には、神聖さやおごそかさをいかに表現するかなど、制作に苦心した様子が記されているが、狩野派の伝統でもある濃淡と強弱を使い分けた墨線により、登場人物の頭髪や衣服の詳細にいたるまで細かく描き込まれた力作である。師の雅邦にも優れた十六羅漢図の双幅があり、その作品を手本に描いた可能性も考えられる。"