縦長の細い画面で視点を上に集めたユニークな構図である。鷹のするどい目付き、やわらかい羽根、背景の流れる水、草や岩などそれぞれの質感を墨の濃淡を駆使して描いた水墨画である。静寂な風景の中に鷹を配し、その視線が画面にピンと張り詰めた緊張感をつくりだしている。あたかも制作に対するきびしい多門の視線が、そのまま鷹のするどい視線に表出されているようだ。この作品は大正10年に描かれたもので多門43歳の時のものである。この年、多門は第3回
[帝展]の審査員を務めている。また前年には朝鮮半島に旅行をしており、実際のスケッチをもとに制作した「金剛山」など多門の傑作が生まれている。多門充実期の一点である。